1長寿と緑内障
日本人の平均寿命は男性80歳、女性87歳と、高い水準にあると知られています。健康的に過ごすことは、だれでも望むことでしょう。では、眼の健康を維持するのには、どういうことを注意すればよいでしょうか。失明原因第一位の“緑内障”と“年令”の関係を考えてみましょう。
<緑内障とは>
眼の神経が、何らかの原因で、ゆっくり(稀には急激に)減ってしまって、見えにくくなる病気です。年をとることに従って、体は衰え、視神経も徐々に減ります。通常の減り方では、平均寿命までには視力や視野が障害されることなく、生涯を全うするわけですが、緑内障の場合、視神経が通常より早く減ってしまって、視野が欠けたり視力が低下してしまうのです。
<緑内障の患者はどれぐらいいるのか>
高齢者に多いといわれていますが、実は平均診断年令は51歳です1。多治見スタディ(多治見市で行った疫学調査研究2)によりますと、40才以上の方では20人に1人、70才以上の方では7人に1人が緑内障を持ちます。残念ながら、その方たちの9割が未治療となっていると言われています。つまり、“点眼治療や通院中”の緑内障患者はわずか1割で、9割は気づかないで日常生活を過ごしています。
以上の特徴を踏まえて、やはり早期発見と早期治療は緑内障進行予防の基本ですね。例えば、40才以降、年一度の定期検診の際は“眼圧測定”と“眼底写真を撮る”ことをおすすめします。まったく症状がない“初期の緑内障”を見つけるには、こうした定期検診を利用することが有効です。
では、緑内障(減ってしまった視神経)は治らないといわれていますが、どう“治療”していきますか
失われた神経は、いまの医療技術では再生できないため欠損した視野は二度と戻せません。視神経の喪失(=緑内障の進行)を遅らせることが、緑内障“治療”です。いま、点眼治療が進歩して、緑内障手術を受けないといけないことが少なくなりました。点眼薬を長期的、持続的に使用し、多くの緑内障の進行を遅らせることが可能です。
引用文献
1
緑内障フレンドネットワーク患者会員調査2009
2
Iwase,A et al :Tajimi Study Group,Japan Glaucoma Society :The prevalence of primary open-angle glaucoma in Japanese: the Tajimi Study. Ophthalmology 111(9) :1 641-1648, 2004
2緑内障の自覚症状
緑内障とは、視野が徐々に欠けて、ついに視力が低下する目の病気です。“緑内障”という言葉はよく知られていると思いますが、これはどんな病気なのか、認識がまだ不十分のようです。最近行ったあるアンケート調査結果を紹介します。
引用先https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2018/2018_05_29.html
抜粋
@自分が緑内障である可能性 「あると思う」はわずか1%40才以上は20人1人(70歳以上は7人に1人が緑内障と言われます)
A早期発見につながる視野検査 6割以上が受けていない
B「視野を気にする」と回答した人は、「視力を気にする」と回答した人の3分の1以下
C48.7%の人が「緑内障になると視野が欠けたところが黒く見える」と誤解(黒くなることはありません。欠けてもほとんど気づきません)
D「緑内障と診断されたら運転できなくなる(禁止される)」と誤解している人が31.7%
以上のような結果から示されたことは、“視野の欠損”は自分では気づきにくい、定期検査の重要性が認識されていないという事実でした。
これからも、緑内障についてより広く、正しく理解をしていただく必要があるとも言えますね。
3急に緑内障と言われたけど...
病気の初期から中期まで,ほとんど症状がない緑内障...
日常生活においても困ることもなかったけれど・・・ある日、たまたま目の充血で眼科に行ってみたら、“緑内障”なんて言われてびっくり!
そんな経験談を聞いたことありませんか。
気づかなかった緑内障を、眼科で見つかったけれども。なんだかよく分からない...そんな方のために、ある小冊子を紹介させていただきます。タイトル名は、“緑内障と診断されたあなたへ”(たじみ岩瀬眼科の岩瀬先生監修)、大事で素朴な疑問を分かりやすく説明してくれるものです。ぜひご覧ください。
*ここで掲載した内容は、大塚製薬「緑内障と診断されたあなたへ(監修:たじみ岩瀬眼科 院長 岩瀬愛子 先生)」より許可を得て転載
4 iStentを使う緑内障手術
毎日点眼するのは、緑内障治療の基本です。点眼薬で高めの眼圧を低くすることで、進行を遅らせることができます。
しかし、何種類もの点眼薬で眼圧下降が不十分で、視野障害の進行も止まらないときには、眼の状況と患者の状況を総合的に考慮して緑内障手術を行う場合もあります。その代表的な手術は、線維柱帯切開術(TLO)、線維柱帯切除術(TLE)です。これらの緑内障手術は限られた施設と術者によって行われます。失明を避けるために行う緑内障手術ですが、視力改善はあまり期待できず、術後合併症も少なくありません。
そんな中で、”比較的に軽症”(=初期の緑内障)の方に、簡便で早期治療により早期予防を期待できる緑内障手術をいくつか行われるようになりました。これらをMIGS(microinvasiveglaucomasurgery)=低侵襲緑内障手術と呼ばれます。従来(線維柱帯切除術TLE、線維柱帯切開術TLO)に比べて、“切開創が小さく”、“炎症を最小限に”、“眼に負担を少なく” 回復の早い手術を行えることで、初期(或いは安定した)緑内障の方にも治療の選択肢となりえます。例えば”360度スーチャーロトミー(S-LOT)”、マイクロフック(μフック)による線維柱帯切開術”、“カフークデュアルブレード(KDB)を用いる線維柱帯切開術”、“iStentを用いる眼内ドレイン挿入術”があります。
iStentとは?
このiStentを眼の中(線維柱帯)に埋め込むことで、房水の排出を改善する(=眼圧の低下)ことが期待されます。
利点は
1白内障手術と同時に行い、手術時間が短縮され、入院の手間も軽減されます。
2従来の緑内障手術より傷口が小さくて術後の回復が早いです。
3術後眼圧下降(20%ほど)効果により、緑内障の点眼薬の数を減らせる(凡そ半分になる)可能性あり、日常生活の負担軽減になります。
(眼圧下降効果不十分な場合、追加の緑内障手術(線維柱帯切開術、線維柱帯切除術など)を検討する場合があります)
従来の緑内障手術は、いまもなお、たくさんの緑内障患者のために行われております。これらMIGSの発展のメリットは何でしょうか?それは、軽症の緑内障患者にとって”早期手術治療”が選択できるようになり、緑内障の進行防止に役立つことでしょう。
*第2世代iStent(iStentinjectW) が日本で承認されて2020年10月から国内でも使えるようになり、当院もこの新型デバイスを導入されました(2021年5月)。